偽りの姫は安らかな眠りを所望する
焦りを隠して立ち上がったティアは、隣に立つフィリスとの目線の高さの差に気づく。ついこの間まで、ほぼ変わらなかったはずなのに。

「背が伸び、た?」

「ああ、そうみたいだ。昨日、コニーにも文句を言われた。丈がどうとか……」

ほんの少しだけ顔を上げて訊くと、やはり僅かに目線を下げてフィリスは苦笑いで応える。こうも短期間でぐんぐんと伸びられては、仕立てる方としては苦情のひとつも言いたくなったのだろう。

「セオドールさんと同じくらいまで伸びるのかしら」

血縁があるからだろうか、なんとなく身体の造りが似ているような気がする。フィリスもそれに頷きながら、不意に顔を険しく歪めた。

「……最低でもラルドには負けたくないな」

呟いた顔つきはまた少年に戻っていて、フィリスはまさに今が、少年から大人へと変わりつつある時期なのだと実感させられる。
あと数年もしたら、もう自分の知らないフィリスになってしまうのだろうか。そんな寂しさがティアの胸を掠めていった。

「準備ができたよ」

温室の入口からセオドールが顔を覗かせる。なんのことかとフィリスに投げかけると、にんまりと、いたずらっ子のような満面の笑顔を返された。


「魚釣り?」

「そう。彼の希望でね。特別に僕の秘密の場所を教えてあげる。ティアは釣りをしたことがあるの?」

用意してくれた釣り道具を担いで森の中を進むセオドールに着いていくティアは、少し考えてこくりと頷く。

「子どもの頃に、父と何度か川で」

しかしあまりに古い記憶すぎて方法などは曖昧だ。もちろんフィリスだって初めてのことに違いない。不安を口にすると、セオドールはほわりと笑んで請け合った。

「大丈夫。釣り糸を垂らしていれば、魚の方から勝手に引っかかるようなところだから」

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