偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「……って言ってたよな? 叔父上」
フィリスは、湖に向けて伸ばした釣り竿を持つ腕に額を付けて項垂れる。
セオドールに連れられ森を抜けると、そこは眼前に広がる青い湖と周辺の緑の対比が美しい絶景の場所だった。
耳に届くのは、森林に暮らす小鳥の鳴き声と、時折湖面から飛び立つ水鳥の羽音。そよ風が立てる微かな葉擦れさえ、耳を澄まさなくても音楽のように聴こえてくる。
ただ、静かなのは周辺ばかりではない、フィリスが凪いだ水面に垂らした釣り糸も静まり返ったまま、ぴくりとも動かない。
「実は魚が住んでいないんじゃないか、この湖」
作業があるからと釣り初心者のふたりを置いて戻ってしまったセオドールに対してのみならず、ついには湖にまで難癖を付け始めた。
「一度休憩にしたら? そろそろお昼だし」
どんどん機嫌が斜めに傾いていくフィリスにたまりかねたティアが、籠の中から昼食を広げて提案する。それを待っていたかのように、釣り竿を放りだして飛びついた。
「大物を釣って、バリーたちへの土産にするつもりだったのだが」
具だくさんのパンを頬張りながら、フィリスはすでに諦めの体で肩を落とす。水出しで入れたウスベニアオイの茶は、湖にも負けないくらい鮮やかな水色になっていた。
セオドールが差し入れてくれた果物も完食してすっかり腹の虫が治まったのか、フィリスは穏やかな目差しで、遠くに波紋の浮かぶ湖面を眺めている。
「魚、ちゃんといるみたいね」
ティアはからかい半分で言ってみたのだが、予想に反してフィリスは目を細め、微かに眦を下げただけだった。
薄くなった目はやがてほぼくっついて、ゆらゆらと帽子の頭が揺れる。満たされた腹が眠気を呼んだのだろう。舟を漕ぎ始めたフィリスに、ティアは声をかけた。
「少し休む?」
「ん。すまない。実は昨日あまり眠れなくて……」
欠伸混じりで呟いた彼の身体がゆっくりと倒れていく。帽子が脱げて白金の髪を露わにした頭を落ち着かせたのは、ティアの膝の上だった。
フィリスは、湖に向けて伸ばした釣り竿を持つ腕に額を付けて項垂れる。
セオドールに連れられ森を抜けると、そこは眼前に広がる青い湖と周辺の緑の対比が美しい絶景の場所だった。
耳に届くのは、森林に暮らす小鳥の鳴き声と、時折湖面から飛び立つ水鳥の羽音。そよ風が立てる微かな葉擦れさえ、耳を澄まさなくても音楽のように聴こえてくる。
ただ、静かなのは周辺ばかりではない、フィリスが凪いだ水面に垂らした釣り糸も静まり返ったまま、ぴくりとも動かない。
「実は魚が住んでいないんじゃないか、この湖」
作業があるからと釣り初心者のふたりを置いて戻ってしまったセオドールに対してのみならず、ついには湖にまで難癖を付け始めた。
「一度休憩にしたら? そろそろお昼だし」
どんどん機嫌が斜めに傾いていくフィリスにたまりかねたティアが、籠の中から昼食を広げて提案する。それを待っていたかのように、釣り竿を放りだして飛びついた。
「大物を釣って、バリーたちへの土産にするつもりだったのだが」
具だくさんのパンを頬張りながら、フィリスはすでに諦めの体で肩を落とす。水出しで入れたウスベニアオイの茶は、湖にも負けないくらい鮮やかな水色になっていた。
セオドールが差し入れてくれた果物も完食してすっかり腹の虫が治まったのか、フィリスは穏やかな目差しで、遠くに波紋の浮かぶ湖面を眺めている。
「魚、ちゃんといるみたいね」
ティアはからかい半分で言ってみたのだが、予想に反してフィリスは目を細め、微かに眦を下げただけだった。
薄くなった目はやがてほぼくっついて、ゆらゆらと帽子の頭が揺れる。満たされた腹が眠気を呼んだのだろう。舟を漕ぎ始めたフィリスに、ティアは声をかけた。
「少し休む?」
「ん。すまない。実は昨日あまり眠れなくて……」
欠伸混じりで呟いた彼の身体がゆっくりと倒れていく。帽子が脱げて白金の髪を露わにした頭を落ち着かせたのは、ティアの膝の上だった。