偽りの姫は安らかな眠りを所望する
覚悟してひと息に流しこんだ液体の味は見た目ほどひどいものではなく、ひりつく喉に染み渡っていく。

「あの娘がどれほど信用できるのか、まだわからない。明日からしばらくは娘の格好をしなければならないな」

嘆息とともに空のカップの中へ言葉を零す。

「では、コニーに早急に何点か誂えるように言っておきます」

床に点々と散らばる衣類を片付ける手を休めずにカーラが言うと、フィリスは再び深くため息を吐く。

「そうだな。いまあるものは、もうほとんど使えない」

先ほど身に付けていたものも、比較的ゆったりとした意匠だったためどうにかごまかせたが、着丈も袖丈もギリギリだった。
急いでいたため詰め物をしなかった胸。凹凸の乏しい身体を目の当たりにしたはずのティアが、なぜ気づかなかったのかが不思議でしょうがない。

「さようでございますとも。この数ヶ月の間に、お背がずいぶんとお伸びになりましたから」

カーラは我が子の成長を喜ぶかの如く目を細めて主を見るが、フィリスの顔は浮かない。
十七という年頃の男子なら、日一日と自分の目線が上がっていくのが嬉しくて仕方がないのが普通なのだろうが、彼にとっては己の身が大人へと向かっていることが苦痛でしかなかった。

「明日など来なければ良いのに」

ラルドがお節介にも開け放った窓から、夕闇に染まり始めた空を見上げる。
少し温度の下がった、湖から吹いてくる風に混じる花の香りに顔を歪め、それらの進入を拒絶するように、再びすべての窓を閉め切った。
< 25 / 198 >

この作品をシェア

pagetop