偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「大変お待たせしました」

ティアが手を取ると、フィリスはそうそうに横になり、もぞもぞと潜ってしまった。
手順は昨夜と同じ。使う精油だけ、配合を少し変えてある。

ゆっくりと優しく、丁寧に。細心の注意を払って、自分の体温をフィリスの手に移すように揉みほぐしていく。
二度目ということもあってか、フィリスの手からも余計な力が抜けていてすぐに温かくなり始めた。

「昨夜はよく眠れましたでしょうか?」

まだはっきりと瞼を開けているフィリスに問いかける。
カーラから聞いていても、やはり本人からの感想が欲しかった。

「ああ。途中で寝てしまって、みっともないことをした」

あいかわらず視線をティアには向けてくれないが、返答があったことにほっとする。

「いいえ。そのために、あたしはこちらへ寄越されたのですから。お役に立てて嬉しいです」
「……そう、か」

沈黙が流れ、居心地が悪そうにフィリスが身動ぎをする。これでは逆効果だ。
どうにか緊張を和らげなくてはと、ティアは話題を振った。

「フィリス様。もしお許しいただけるのでしたら、今度は足にも施したいのですが」

心臓から遠い足先は、手よりも冷えることが多い。そちらも一緒にできれば、より効果が上がるだろうと思っての提案だったのだが……。

「そ、それはならんっ!」

ガバリとフィリスが跳ね起き、自分の足を掛布でグルグルと包み込む。
まだ拭いていない施術途中の手でしたので、布に油がついてしまった。

「あ……」

ティアの声にフィリスが、慌てた様子でまだ施術前の左手まで一緒にをパッと開いて両手を上に挙げるが、もちろん、いまさら意味はなさない。
気まずい空気がふたりを包む。僅かな茶を零した敷布と違い、さすがにこのままにはしておけなかった。

「すぐに新しいものとお取り替えいたします」

ティアは手燭に火を移し、部屋の奥にあるそれらしい扉を開ける。そこは衣裳部屋となっているようだった。

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