偽りの姫は安らかな眠りを所望する
今日の香茶は甘さ押さえ、代わりに草原にいるような爽やかな香りを軸にしている。
なんとなく、フィリスにはその方がより合うと思ったからだ。
ちびちびと熱い茶を啜る姫君の頬に、ほんのりと赤みが差すと同時に、一見するとキツい印象を受ける紫の瞳も心なしか和らぐ。
それを横目に、ティアは精油を数種類合わせ、拡散器を使って薫らせた。
熱で温められた精油から緩やかに広がる芳香に、フィリスが顔をカップから上げ息を大きく吸い込む。
「良い香りだ」
独り言のように呟かれた言葉が、ティアの中でとても大きな意味を持つ。
所詮香りとは主観的なもの。いくら効果のある香草や精油を使っても、当の本人がその匂いを不快に感じてしまったら元も子もない。
自分の調合したものが、フィリスに僅かでも認めてもらうことができたのだ。
嬉しさで速くなる鼓動をなだめながら、施術の許可を得た。
「フィリス様、本日もお手をお貸りしてもよろしいでしょうか?」
すると、フィリスはぴくっとカップを持った手を揺らす。
中身はすでに飲み終えたあとだったため、ティアはそれを受け取り首を傾げた。
「……お嫌、でしょうか?」
やはり王女に対して、直に手に触れるなど無礼だったのか、と肩を落とす。
あからさまに落ち込んだティアを見て、フィリスが慌てた様子でカップを握る彼女の手首を握った。
「嫌などでは、ない。ただ……」
「痛っ!」
予想より遥かに強いフィリスの力にティアは思わず声を上げ、カップを寝台の上に取り落としてしまう。
底に極僅かに残っていた茶によって、敷布に小さな茶色い染みができた。
「も、申し訳……」
「すまなかった」
慌ててカップを拾い謝ろうとした声に、弾かれたように手を離したフィリスの謝罪が重なる。
昨日よりはっきりと聞こえた言葉の意味に、まさかと思いティアが顔を上げると、ぷいと左を向いたフィリスの決まりの悪そうな顔があった。
王女という立場にある者が一介の使用人風情に謝るなど、ティアの見解にはなかったことが続いて面食らう。
「そのままで構わない。後で洗濯をするのは、どうせそなたたちなのだから」
そう言って差し出された右手に、さらに戸惑いを隠せなかった。
「なにをしている。貸せと言ったのはそっちだろう?」
「は、はいっ!」
それが施術の了承だと気づき、急いで用意をする。
なんとなく、フィリスにはその方がより合うと思ったからだ。
ちびちびと熱い茶を啜る姫君の頬に、ほんのりと赤みが差すと同時に、一見するとキツい印象を受ける紫の瞳も心なしか和らぐ。
それを横目に、ティアは精油を数種類合わせ、拡散器を使って薫らせた。
熱で温められた精油から緩やかに広がる芳香に、フィリスが顔をカップから上げ息を大きく吸い込む。
「良い香りだ」
独り言のように呟かれた言葉が、ティアの中でとても大きな意味を持つ。
所詮香りとは主観的なもの。いくら効果のある香草や精油を使っても、当の本人がその匂いを不快に感じてしまったら元も子もない。
自分の調合したものが、フィリスに僅かでも認めてもらうことができたのだ。
嬉しさで速くなる鼓動をなだめながら、施術の許可を得た。
「フィリス様、本日もお手をお貸りしてもよろしいでしょうか?」
すると、フィリスはぴくっとカップを持った手を揺らす。
中身はすでに飲み終えたあとだったため、ティアはそれを受け取り首を傾げた。
「……お嫌、でしょうか?」
やはり王女に対して、直に手に触れるなど無礼だったのか、と肩を落とす。
あからさまに落ち込んだティアを見て、フィリスが慌てた様子でカップを握る彼女の手首を握った。
「嫌などでは、ない。ただ……」
「痛っ!」
予想より遥かに強いフィリスの力にティアは思わず声を上げ、カップを寝台の上に取り落としてしまう。
底に極僅かに残っていた茶によって、敷布に小さな茶色い染みができた。
「も、申し訳……」
「すまなかった」
慌ててカップを拾い謝ろうとした声に、弾かれたように手を離したフィリスの謝罪が重なる。
昨日よりはっきりと聞こえた言葉の意味に、まさかと思いティアが顔を上げると、ぷいと左を向いたフィリスの決まりの悪そうな顔があった。
王女という立場にある者が一介の使用人風情に謝るなど、ティアの見解にはなかったことが続いて面食らう。
「そのままで構わない。後で洗濯をするのは、どうせそなたたちなのだから」
そう言って差し出された右手に、さらに戸惑いを隠せなかった。
「なにをしている。貸せと言ったのはそっちだろう?」
「は、はいっ!」
それが施術の了承だと気づき、急いで用意をする。