君に捧ぐ、一枝の桜花
生と死
「おいっ!」

突然の声に明はびくっと身を竦ませた。窓辺を見れば、吉野が息を切らして立っていた。

「どうしたの?忘れ物?」

明は読んでいた本を閉じて吉野の忘れ物がないか、きょろきょろと辺りを見渡す。その間に吉野はベッドの脇まで歩いてくると、包みを明の前に突き出した。

「これは薬であろう!?何故、飲まずに捨てる!?」

怒鳴り声。怒鳴られた張本人はきょとんとして吉野を見上げる。

「あーあ。中身見ちゃったんだね。吉野ってば、むっつりすけべー」
「阿呆!」
「じゃあ、オープンなんだ?」
「おーぷん?」
「開放型すけべ?」
「違う!それはどうでもいい。お前、死ぬぞ」
「いいよ」

即答だった。その声は今まで吉野が聞いた明の声の中で一番、固いものだった。吉野は目を見開いたが、すぐに怒りへと表情を変える。

「僕の願いはただ1つだから。それさえ叶えば命など惜しくないよ」

吉野が再び怒鳴ろうとした瞬間にその言葉ははっきりと発せられた。

「・・・・だから薬とか治療とかの延命治療はもう、必要ないんだ。それに僕は疲れた」
「お前は生きたいのに生きられぬ者の気持ちを考えてみろ!病や戦で死にゆく者は大勢居るんだ!生きるのはこのうえない幸福なんだぞ!?」
「逆に言うけれど、死にたいのに死ねない人の気持ちは分かるの?逢いたい人にも逢えないのにっ!!」

いつになく、明の雰囲気が違う。

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