どこまでも、堕ちていく。

たったの3日で子どもたちの顔と名前が一致していることに。
先生だからそれくらい当たり前のことなんだろうか?

「山本先生は…、春に大学を卒業されたばかりなんでしょうか?」

ふと口から出たそんな言葉。
言ってから少し失礼な質問をしてしまったかもしれないと反省する。
いくら若くても相手は幼稚園の教論なのに。
恐る恐る直樹のほうを見上げると、彼はキョトンとした表情をしていた。

「大学?俺がですか?」
「え、違うんですか?じゃあ去年とか…?」
「一応大学は出てますけどもう何年も前の話ですよ」
「え?」
「俺、今29歳なんで」
「えっ?」

思わず素っ頓狂な声を出してしまった私。
少し離れた所にいる由美たちの視線を一気に集めてしまい、慌ててジェスチャーで"何でもない"と合図する。

「先生、29歳なんですか?」
「はい」

あっけらかんとそう答えた直樹だが、私はあまりもの衝撃に言葉が見つからない。
自分よりも年上…?
目の前にいる男はどう考えても20代前半、頑張っても20代半ばくらいにしか見えないのだ。

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