俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
K県の美羽町。都会でも田舎でもない下町気質が根強く残るこの町で、羽衣子も洸も生まれ育った。

羽衣子の家は両親ともに教師、洸の家は商店街にある小さな宝石店《永瀬宝飾店》を経営していた。

宝石店と言っても、子供が母親にプレゼントできる程度の値段のネックレスやカジュアルな時計なんかも扱っていた。

「宝石の売上なんて僅かなものでね〜、うちを支えてるのは修理とリメイクよ。お父さん、無愛想だけど腕だけは確かだから」

おばさんの言うとおり、永瀬宝飾店のお客さんのほとんどは壊れた時計の修理や古いジュエリーのリメイク依頼だった。 頼まれれば、宝石だけでなく家電なんかも直してくれるけど。


羽衣子は永瀬宝飾店が大好きだった。
キラキラと輝く色とりどりのジュエリーを眺めたり、おじさんが工房の奥で作業しているところを見せてもらったり。

いつの間にやら、すっかり入り浸るようになってしまった。
お客さんの中には洸と羽衣子を兄妹だと思っている人もいるくらいだ。

そんな訳だから、洸の毒舌もすっかり慣れっこだ。気にも止めない。

「ねぇ、ねぇ。おばさんがいつもしているその指輪、結婚指輪?」

羽衣子はおばさんの左手の薬指を穴が空くほど見つめて、言った。

自分の母親がしている何の飾りもない銀色のそれとは違い、おばさんの指輪は中央にダイアモンドが輝いている。
更にダイアモンドを飾るように小さなブルーの石が連なるデザインで、うっとりするほど美しい。

おばさんは細く白い指先を羽衣子の前に差し出すと、懐かしそうに目を細めた。
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