俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「とても光栄ですが‥‥もう少し時間をください。私は海外に出るならまずはアジア圏でと考えていました。ファッションの価値観に近いものがありますからね。欧米での展開はまだ未知数な部分が多すぎます」

リー・マーロウは心底残念そうに肩を落とした。

「見かけによらず、慎重なのね」

「一応経営者ですから。そりゃ、リスクも考えますよ」

洸はわざと少し砕けた口調で言って、苦笑いをしてみせた。

「そう。では、気が向いたらいつでも声をかけてね」

リー・マーロウは片手をあげてさよならを告げると、くるりと踵を返した。まるでランウェイを歩くスーパーモデルのようだ。カツカツとヒールを鳴らして遠ざかっていく彼女の背中に羽衣子は思わず声をかけた。

「ま、待ってください!」

リー・マーロウは振り返って、少し驚いた顔で羽衣子を見る。隣に立つ洸も目を見開いて羽衣子をじっと見つめた。

あぁ‥‥なんで、引き止めちゃったりしたんだろう。きっとこの瞬間を死ぬほど悔やむ時がくるだろう。だけど‥‥羽衣子はすぅと大きく息を吸い込むと、まっすぐにリー・マーロウの黒い瞳を見つめて話し出した。


「あのっ、行きます!!ニューヨークでも香港でもエジプトでもアフリカでも!
永瀬はあなたと一緒に行って、プリュムを世界一のブランドにしますっ。あなたにも絶対損はさせません!」

リー・マーロウは一瞬の沈黙ののち、ぷっと盛大に吹き出した。ケラケラと声をたてて笑っている。洸は呆気に取られたように、パチパチと目を瞬かせた。

「ふふふ。コウ、あなたのミューズはあなたよりずっと男前ね。私も恋してしまいそうだわ」

リー・マーロウの言葉で我に返った洸は慌てて口を開いた。

「ちょっ‥‥待てよ、羽衣子。 暴走するな」

「暴走なんかじゃないよ! 洸ちゃん、本当は行きたいんでしょ⁉︎ チャンスを前にして尻込みするなんて、らしくないっ」

「さっきも言ったように、チャンスにはリスクがつきものだ。従業員の生活だってある。俺のやりたいことだけを好き勝手やるわけには‥‥」

「絶対に成功するから、そんな心配はいらないよっ。洸ちゃんなら絶対に大丈夫なの」

羽衣子はきっぱりと言い切ると、今度はリー・マーロウに向き直った。
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