イジワル御曹司と花嫁契約
まあ、いいいか、と諦めの笑みが零れる。


これが私だ。


何もないけど、彰貴を愛する気持ちだけは溢れるほどにある。


傷ついたっていい。


無鉄砲だっていい。


彰貴がいなければ、立っていられない。


 二十三時を少し過ぎた頃、玄関のチャイムが鳴った。


心臓が跳ね上がり、喜び勇んで玄関へと走る。


小さな丸穴から外を見ると、スーツ姿の彰貴がいた。急いでドアを開ける。


「遅くなったな」


「ううん、彰貴こそ疲れてるでしょ」


「胡桃の顔を見たら、疲れなんて吹っ飛んだよ」


 またもやこちらが恥ずかしくなるようなせりふを言って、彰貴は家の中に入ってきた。


当然のように家の中に入ることを、自然と受け入れている私。


本当の恋人同士みたいだ。


「何もないでしょ」


 部屋の中央にまで入った彰貴の背中に言葉を投げかけた。


「そんなことよりセキュリティーの甘さが気になる」


「セキュリティー?」


「危ないだろ、こんなところに若い女が一人で住んでたら」


 至極真面目な表情をして、心の底からよろしくない、と思っている様子が表われていた。



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