イジワル御曹司と花嫁契約
 ロビーは、床が一面大理石でとても広々としている。


メインエントランスの受付デスクには仕立てのいい黒のスーツに身を包んだコンシェルジュが二人いた。


いずれも四十代くらいのとても綺麗な女性で、礼儀やマナーに長けたベテランのコンシェルジュのようだ。


 八重木さんの顔を見るなり、丁寧にお辞儀をして言った。


「お待ちしておりました。お話は東郷様からお聞きしました。ビル内の説明やセキュリティー認証など説明致しますのでこちらへどうぞ」


 コンシェルジュの一人が受付デスクからロビーへ出て、私を案内しようと待っている。


不安気に隣の八重木さんを見上げると、八重木さんはにこやかに微笑んだ。


「彰貴様の根回しの速さには驚かされますね。もう私の出番はないようです。分からないことはこちらの方々に何でもお聞きください。それでは私は会社に戻ります」


 もう行ってしまうの? と心寂しい気持ちになったけれど、これ以上頼るわけにもいかない。


「ありがとう」と私が言うと、八重木さんは晴れやかな笑顔で一礼して去っていった。それを見届けると、コンシェルジュが「どうぞこちらへ」と促され、私はただ黙って後ろについていく。
< 154 / 280 >

この作品をシェア

pagetop