イジワル御曹司と花嫁契約
 彰貴の声は苛立っていた。


呆れかえるようでもあった。


……顔を見ずに話せて本当に良かった。


今の私の顔を、彰貴には見せられない。


今にも泣きそうで、悲しくて辛くて、皺くちゃの顔をしている。


「別れたいならはっきり言えよ」


「別れたいっていうか、最初から付き合ってないし」


 喧嘩腰に言う。


もうこれ以上、話したくない。


これ以上、傷つきたくない。


「話にならない。今から行く」


「待って! 駄目、嫌だ、来ないで!」


 必死の叫びも虚しく、通話は途切れていた。


どうしよう、彰貴の顔を見てしまったら、別れを告げることなんてできなくなる。


こんな顔を見られたら、私の気持ちに気付かれてしまう。


 どうしよう、逃げる? 


でもこんな遅い時間に女一人で外に出たら危ないし。


逃げてたって、いつかは絶対見つかるし。


どうやって対応する? 


どうやって乗り切ればいい?


 どうしよう、どうしたら……。
< 197 / 280 >

この作品をシェア

pagetop