イジワル御曹司と花嫁契約
 自分の境遇を悲観したり、他人を羨ましく思ったり、そんなこと考えるだけ不毛なことだと思っていたけど、もしも私がどこかの令嬢として育っていたら、彼と別れなくてすんだのかなと頭をよぎってしまう。


もしも彰貴が、普通の家庭で育った普通の人だったら……。


そんなこと、考えるだけ無駄なのに。


 貧乏暇なしとはいうけど、暇がない方が救われる。


こんなどうしようもないことを考えるのは暇だからだ。


母が帰ってくれば、母の介護が待っている。


もっともっと忙しくなって、考える暇もなくなって、彰貴を思い出さなくなる時間が増えればいい。


 そしたらまた、笑える日が来るかもしれない。


病院に着き、退院の手続きを終えて帰る準備を整える。


病院の裏口のロータリーまで看護師さん数名と担当の先生がお見送りで付いてきてくれた。


母は病院から借りた車椅子に乗り、にこやかに先生たちに挨拶をしている。
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