イジワル御曹司と花嫁契約
捨てられた恐怖を思い出させてしまった。


一番の被害者は彰貴だった。


とても傷付いたと思っていたけど、私も加害者だった……。


 残酷な現実に、言葉を失う。


なんて、無力なんだろう。


愛する人も、守れない。


傷付けることしか、できないなんて……。


「自分を責めてはいけませんよ。

これは彰貴様の宿命なのです。

どうするか、どう生きるかは、彰貴様が決めることです。

他人が憐れんでも仕方のないことです」


 八重木さんの言葉は、彰貴にとって厳しい言い方だったけれど、それ以上に愛情を感じた。


全てを知り、見守る、そんな存在が彰貴の側にいてくれて良かった。


願わくば、私もその存在になりたかった。


何もできなくても、ただ側で見守っていたかった。


「それでは……」


 そして八重木さんは、リムジンを運転して行ってしまった。


遠ざかる車を見ながら、私と彰貴は帰るべき場所に帰ったのだと思った。


それが、運命なのだと……。

 
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