イジワル御曹司と花嫁契約

 存在くらいは、流行りに疎い私でも知っている。


でも、そういうところがあるって聞いたのは数年前の話だ。


 目の前に佇むフォトスタジオは、とても綺麗で新しかった。


高級サロンのような、気軽には入りにくい雰囲気さえ醸し出している。


「写真を撮るのはまだいいとして、ドレスを着てヘアメイクまでしてもらうのは恥ずかしいなあ」


 少し尻ごんでいると、お母さんは遠くを見るようにポツリと言った。


「胡桃と、お母さんの思い出を形に残るものとして、撮っておきたいって思ったの」


 ……ああ、そうか、なるほど。


考えてみれば、二人並んで撮った写真はとても少ない。


それはいつもどちらか片方が撮っているから、二人並んで撮るとなると、誰かに頼まなくてはいけなかった。


楽しい思い出を形として残したい、か……。


やっぱり、一度死ぬかもしれないと思った人の言葉は重みがある。
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