イジワル御曹司と花嫁契約
悪魔の契約
茜色の西日が、巨大な白い病院を照らしている。


 あの悪夢のような豪華客船パーティーから数日後、私は早めに仕事を切り上げて母が入院する病院に向かっていた。


 なぜか大勢の人達の前で、初めて会った人の婚約者と紹介され盛大な拍手に包まれた。


その後、船が港に着港したので私は全速力でその場から逃げた。


背後で東郷彰貴と名乗った俺様傲慢野郎が「待て」だか「止まれ」だか叫んでいたような気がするけど、聞こえないふりをして、ハイヒールの音を響かせながら走った。


 その時にお母さんから借りた大事なハイヒールをまたしても片方落としてしまったけれど、これ以上こいつに関わっていたら危険な気がして、諦めて逃げることに専念した。


 名前も教えていないし、あいつが私を見つけることは不可能だ。


それだけがせめてもの救い。


まったく、とんだ災難な目にあった。


いきなり婚約者のふりをさせられたことを母に言うのは心配をかけそうで言えなかった。


当然、その成り行きでお母さんのハイヒールをなくしたことは言えていない。
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