イジワル御曹司と花嫁契約
数日経った今でも思い出すと怒りが湧いてくる。


なんで私があんな目に。ハイヒールは、母が退院したら新しいものを買って許してもらおう。


今日は抗がん剤治療の経過観察結果を担当主治医から説明を受ける大事な日。


副作用にも耐えて、これまで頑張ってきたんだから、絶対にいい結果が聞けるはず。


豪華客船パーティーで嫌な目に合ったんだから、次はきっといいことが待っている。


そうじゃなきゃ人生やってられないじゃないか。


神様はきっと見ている。


今まで母はとても大変だったんだから、これから幸せな人生が待っているんだ。


これから精一杯親孝行するんだから。


……だから大丈夫。


震えそうになる指先をぎゅっと握りしめて、病院の自動扉を通った。


 母がいる大部屋には向かわずに、数部屋ある診察室の一番奥の一室で担当主治医を待った。


時間通りに来たけれど、担当主治医の先生は忙しいらしく誰もいない診察室でしばらく待った。


 テーブルと椅子が置かれただけのとても小さな部屋の中で、自分の心臓の音がやけに耳に響いた。


何度も生唾を飲み、天井を見上げる。


 大丈夫、きっといい報告が聞ける。


そう自分に言い聞かせるけれど、心臓の音は大きくなっていくばかりだった。
< 37 / 280 >

この作品をシェア

pagetop