イジワル御曹司と花嫁契約
怖い……。


甘い蜜を差し出してくるこの男の腹の中が見えない。


婚約者のふりをする、たったそれだけで数百万が手に入る。


母を助けられる。


でも……、でも……、本当にいいんだろうか。


大丈夫なんだろうか。


 なかなか差し出した手を取ろうとしない私に、彼は訝し気に眉を寄せる。


「どうした、なぜ迷うことがある。

ここでお前が俺の手を取らないなら、お前の母親は助かる可能性は極めて低いぞ。

それとも、闇金で金を借りて風俗にでも堕ちる気か?」


「風俗……。闇金……。

考えもしなかった。そっか、私がお金を用意するにはそんな手もあったんだ」


 なるほど、と思っている私に彼は慌てた様子で近寄り、私の肩をさすった。


「おい、闇金だけはやめておけ!」


「ちょっと、闇金から借りようなんて一言も言ってないでしょ!」


 私が怒って言うと、彼はほっと安心した様子で肩から手を離した。


 彼は本気で焦っていた。


私が風俗で働くことになるんじゃないかと心配してくれていた。


 ……悪い人じゃないのかもしれない。


でも、いい人にも見えない。


 彼の手を取らなければ、私に残された選択は二つ。


辛い抗がん剤治療で完治を目指すか、闇金でお金を借りて風俗で働くか。
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