未来絵図 ー二人で歩むこれからー 
 それから数日。ノリにのって作業していた新司の手が止まりため息を付きながら、休憩中の奈々子のところに泣きついてきた。

「奈々子さ~ん。」

「どうしたの。」

「ドレスの装飾が出来上がらないんっす!」

「瑞希さんからは、終わったってきいたけど。」

「やよいさんのです!もう、どれにしよう考えてたら、似合うものが多すぎて大変なんっす!」

 奈々子は、新司の顔を見ながら、"ふ~。"とため息をついた。新司は、テーマ別の装飾もカラードレスの装飾も難なくクリアしていたが、白ドレだけ中々決めることが出来ずにいた。それは、そこに"相手"が存在するからだ。

 新司はアイディアに独創的なものがあり、コンテストとなれば目を引くもの・趣旨にあったものを表現出来るが、"相手"の希望に沿えることや、"相手になにが合うのか"を考えて造り上げるのは、苦手としていた。

 今回、やよいに対しての好意から、行き詰まってしまうことは、奈々子は分かっていて、敢えてやよいをモデルにした。

「まっき~。お客様のニーズに添うって、今みたいに悩み抜くことじゃない?瑞希さんのときと違って、やよいさんのときは、この人には何が似合うかなぁとか考えてるんでしょ?その気持ちは、これから顧客と向き合う上で、大切になってくるよ?たくさん悩んだらいいよ!」

 新司は、ピンときた。もしかして、自分に足りないものを教えてくれてる?そんな顔で、奈々子をみると笑顔を見せられた。

「奈々子さん、ありがとうございます!」

 新司は吹っ切れた感じで、颯爽と売り場に戻った。

 その様子を見ていた隼が奈々子に声かけた。

「ふたりは成長しますね。思惑通りでしょ?」

「隼くんには何でもお見通しだね!」

「そりゃ、奈々子さんのこと、よく見てますし。」 

 王子スマイルの隼に、奈々子は苦笑いを返す。自分の気持ちを打ち明けられてから、"そんなにすぐには無理ですよ?"と開き直り、ちょくちょくこんなことを言っては、奈々子を悩ませる。

 隼が言った通り、空間を巧くつかえ独創的な新司に、人の要望を巧く形にするが保守的なしおり。

 ふたりには、今回のコンテストで、自分と向き合って成長して欲しいと思っていたため、どんな作品を造り上げるか楽しみなのだ。

 そんな二人の作品が出来上がったのは、お盆明けだった。
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