イケメン上司と とろ甘おこもり同居!?
ぽかんと開きっぱなしの渇いた視界には、同僚たちから羨望の眼差しを向けられご満悦に微笑む日浦が映る。
温かい笑い声が満ち溢れた中で、私はいそいそと、未開封のチョコレート持って立ち上がった。


「あれ?辰巳さん、どこ行くの?」


隣に座っていた総務部の先輩、真下さんが不思議そうな声で言った。


「今日は食べないの?チョコレート」
「わ、私ちょっと、外の空気を吸いに……」
「えっ、具合でも悪いの?」
「いえ、大丈夫です…」


足に力が入らない。頭がくらくらする。

騒々しい社員食堂の色んな音が、頭の奥の方で古い映画が再生されているかのように、遠くで聞こえる錯覚を覚える。


「辰巳さん、どうしたんだろ?いつもならランチの後はチョコレートなのに」


さっきまで座っていたテーブル席を、ようやく少し離れられたとき、真下さんの声が後方からぼんやりと聞こえてきた。
そして次に背中を追ってきた溜め息混じりの声に、私は耳を疑った。


「困るだよな~、勘違いされちゃ」


どんなに騒がしくても、受け入れられなくて耳を塞ごうとしても。


「…っ」


聞き馴れたその声を、確かに私の耳は拾った。
けれどもついこないだまでの、耳に優しい甘い声ではない。残酷なまでに私の胸にぐっさりと突き刺さる一言で。


「は?勘違い?日浦くん、なに言ってんの?」
「いや、なんでもないっす!はは!」


真下さんと日浦のそんな声が聞こえたのは、もう社員食堂の出入り口まで、覚束ない足取りでやって来ていたときだった。


『困るだよな~、勘違いされちゃ』


私はチョコレートの箱を、抱き締めるようにして持った。
頭の中で、さっきの日浦の声が反芻されるたび、くらくらして、体が揺れた。
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