イケメン上司と とろ甘おこもり同居!?
は、っと息を吸った。
甘い臭いが、鼻を掠める。

なつかしくて、安心する。
紛れもなく私の細胞に根付いた香りが。


「痛ってーな!なにすんだよ!」


男の怒号が遊歩道に響く。
現れた男性が、私の手首を掴む男の腕を乱暴に引き剥がしたからだった。

暗いし、気が動転してるけど、助けてくれた人の正体が、一体誰かなんて。

首を捻るまでもない。


「警察呼びます。」


鈴木さんは男の腕を掴んでない方の手に、スマホを掲げた。
すると男は私の腕をすぱっと離し、一目散に走り去って行った。


「逃げ足速。一応、警察に行って事情を話しましょう。……辰巳さん?」


ふ、っと短い息を吐いた鈴木さんが、へなへなと地面に座り込む私を不思議そうに見下ろす。


「す、すみません……。こ、腰が、抜けてしまって」


ビブラートがかかってるみたいに、声が揺れた。意識して、呼吸を整える。
体は落ち着いたはずなのに、まだ心臓だけが逃げ惑っているようだった。


「君が、最初に笑い掛けたって?」


手を差し延べながら、鈴木さんが腰を屈めた。


「笑い掛けたつもりなんか、ないです!ただ、鈴木さんだと思ったから…。暗くてよく、見えなくて」
「ごめん。」


え__?

そそっかしいと、からかわれるものだとばかり思っていた私は、大きく開いた目で鈴木さんを見上げた。


「ど、どうして、謝るんですか……?」
「会社出るの遅くなっちゃって。君っぽい子が走ってる、って、なんとなく遠くに見えたときにもっと早く、追い掛ければ良かった。早く助けてあげられなくて、ごめん。」
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