イケメン上司と とろ甘おこもり同居!?
驚きすぎて、涙が止まった。
口内に残っていたチョコレートを、ごくりと慌てて飲み込む。

起き上がった男性は髪がボサボサに乱れ、ダボッとした生成りのシャツを着ていた。髪にも背中にも、芝生がたくさん付着している。


「あ……れ?」


よく見ると、知っている男性だった。
イケメンなのにちょっと変わってる、と社内では噂の、商品開発部の鈴木さんだ。歩きながら寝てるんじゃないかと思ったことがあるほど、いつもぼーっとした表情の…。

と、私が思い出してる間にも、鈴木さんはチョコレートを凝視している。
えと、「食べま」「お言葉に甘えて。」「……」まだ、言い掛けただけなんだけど…。

のそのそと近寄ってくる歩き方は、失礼だけどまるで冬眠から覚めた熊みたい。
鈴木さんは私の隣に座ると、チョコレートを一粒口に含んだ。そう、人気洋菓子店エクリュの限定フレーバー、キャラメルソース。


「商品開発部の鈴木さん、ですよね。こちらで、お昼寝ですか?」
「?君は…」
「あ、総務部の辰巳奏です。」


ぺこりと頭を下げると、鈴木さんは一瞬だけ目を見開いてから、すぐにまた眠たそうな虚ろな目に戻った。


「…ここでの午睡が僕の日課です」


初めて間近に見る鈴木さんは、噂通り、とても端正な顔立ちをしている。
すっと鼻筋が通っていて、目元は涼しげだけれど睫毛が長く、長めで癖っ毛っぽい髪も目も、色素が薄い。


「けど、なんかいい匂いがすると思って、目が覚めました。」
「見なくてもどこのお店のどんなチョコレートか分かるなんて、すごいですね」
「仕事柄、よく食べますから。鼻が利くんです、僕。」
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