イケメン上司と とろ甘おこもり同居!?
私たちの席は高砂の、斜め正面だった。同じテーブルに、碓井さんが既に着席していた。
「碓井さん、こんにちは」
「お疲れー。見た?あそこ、チョコレートフォンデュ」座ろうとしていた私と真下さんは中腰のまま、碓井さんが指差した方向に目をやる。
「ほんとだ!テンション上がるわぁ」真下さんが声を弾ませた。
会場の片隅で、滝のようにどろどろとチョコレートが流れている。
道理で。会場に入ったとき、甘い匂いがすると思った。でも、それが現実なのか、はっきりしなかった。嗅覚が、胸の奥で燻された香りに取り憑かれてるだけかもしれない、って、思って。いつも。
チョコレートみたいな甘い匂いをどこかに、探してる。
そんな未練がましい自分が、嫌になる。
「あれ……、辰巳さん?チョコレートだよ?大好きなチョコレートが食べ放題だよ!?なんだか、反応薄くない?」
目を細め、知らず知らずのうちに心臓に拳を当てていた私は、真下さんに顔を覗き込まれてハッとした。
「そんなことないですよ!楽しみですね、デザートタイム」
「…もしかして、日浦とまたなにかあったの?さっきの角倉さんの話、気になってる?」
「ち、違いますよ!ちょっとお腹の調子が悪くて…。実は昨日、実家で食べ過ぎたちゃったんですよね」
「わかるわかる、お袋の味ってやつ?私も無性に母親の手料理が恋しくなるときがあってさぁ」
真下さんが田舎料理の話を始めたけれど、私にとってのお袋の味はチョコレートかもしれないなぁ、などと考えていると、不思議なことに気付いた。
「……あ、れ……?」
おかしいな、チョコレートの甘い匂いが、より濃くなってくる。
まさか、あんな名瀑かってくらい大きなチョコレートフォンデュが、移動してくるはずなんてない。
そんなはずないのに、どうして__。
「__え!部長補佐!?」
こんなに近くで、チョコレートのような甘い匂いが、鼻孔を強く、刺激するのだろう。