イケメン上司と とろ甘おこもり同居!?
日が短くなり始めた夕暮れ時の街角は、古い本を捲ったみたいなスモーキーな色合いの風が、緩やかに流れている。
路肩にタクシーが停車した。
「さ、降りて」
会計を済ませた鈴木さんは、先に降車して私に手を差し伸べる。ハザードランプが明滅を繰り返す音に、なんだか気が逸る。
「はっ、はい……」
おずおずと右手を伸ばし、指先を摘まむように握ると、ぐいっと強引に引っ張られた。
お陰でよろめきながら降り立ったそこは、地理的には会社の裏側で。私が暮らすアパートから、徒歩で難なく行き来出来そうな距離だ。
一旦立ち止まってマンションを見上げた私は、躊躇う暇もなく鈴木さんに引率されエレベーターに乗った。
「緊張してる?」
「えっ……?」
当然だ、って、声を大にして叫びたい気分だ。
…もしも、この狭い箱の中に二人きりで立って、ただ頷くという単純な動作さえままならないくらい緊張してなければ、の話だけれど。
「君に、ご馳走したいものがあるんだ。」
「ええっ……なんですか?」
「まだナイショ。脈拍、速くなってる。」
エレベーターの到達音と同時に、鈴木が握る手に力がこもった。
部屋の前に着いて、「お、お邪魔します……」と、玄関で呪文のように呟く私を置き去りにして、鈴木さんはすたすたと奥に歩いて行ってしまう。
「今から準備するから、楽にしてて。」
ジャケットを脱ぎながら鈴木さんは、リビングにあるソファーを顎で指した。