イケメン上司と とろ甘おこもり同居!?
と、言われても……。

男の人の部屋に来るのは初めてだから。楽にするなんて到底無理だ。
肩を張り上がらせて私は、かちこちに体が硬直しているのを感じる。対面式のカウンターの向こうで、鈴木さんが動いている様子が視野に入る。


「…っ……」ど、どうしよう…。


今更結構です、なんて言って引き返す訳にもいかなそうだ。

目だけきょろきょろ動かして、不躾かもしれないけどついリビングを見渡してしまう。
ブラウンの革張りのソファー、木目調のテーブル。まだ引っ越して間もない、シンプルな家具の数と配置。


『結婚してないです、僕。したこともない』


本当に、独り暮らしなんだ…。

結婚してない。奥さんは、いない。タクシーの中で、鈴木さんが説明してくれた。

だけどひとつだけ、まだ心に引っ掛かることがある。今日と同じように、手を捕まれた日のこと。
てっきり社内での噂を信じて、別居中の奥さんに対しての言葉だと思っていたけれど…。


『ごめん……』


「……あの、寝言は……」


奥さんへの、謝罪じゃないってこと…?


「__寝言?」


ハッとして、私は声がした方を見る。
キッチンから、カップをひとつ手に持った鈴木さんが、近くに歩み寄ってきた。

たちどころに、甘い匂いが充満して、それはもくもくと立体的な気流みたいに、目視できるほど。


「…い、いえ!なんでもない、です」
「あのとき僕、ほんとは起きてたんだ。」
「、へっ!?」


一拍間を置いて、掠れた声が裏返るくらい驚いた。
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