最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「エヴルよ、答えは決まりましたか?」
「はい。私は王位を継ぐことを決意いたしました」

 モネグロス様を真っ直ぐ見つめ返しながら、エヴルは自分が選んだ答えを口にする。
 その目にも、声にも、迷いは微塵も窺えないのを見たモネグロス様は、満足そうにうなづいた。

「よろしい。では、エヴルが本物の王子である証しを立てる方法を教えましょう。……あなた方は『ヴァニスの剣』が存在することを知っていますか?」

「『ヴァニスの剣』?」

 私とエヴルは顔を見合わせ、小首を傾げた。
 そんな仰々しい名前の剣は、ちょっと聞いたことがない。

 賢君ヴァニス王が使っていた剣ってことかしら?
 そりゃあ戦いの神話に登場する王様なんだから、剣の一本や二本持っていたろうけれど。

「そんじょそこらの剣ではありませんよ! なんと、ヴァニスが建国神話の戦いにて敵を討ち滅ぼした、特別な剣なのです!」

 モネグロス様が握りこぶしで得意気に語るのを、私はふーんと思いながら聞いていた。
 神話の時代の剣か。ずいぶん古い剣が現存するのね。

「ならとっくに錆びついちゃってるんじゃないですか? その剣」

「……錆びはしませんよ。神が鍛えた剣なのですから」

「あ、モネグロス様が鍛えたんですか? 神様ってそんな刀匠みたいな仕事もするんですか?」

「いえ、鍛えたのは私ではありません……」
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