最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 当たり前?
 私の中に風かあることは、当たり前なこと……?

 そう思った途端、自分の中にサァッと一陣の風が吹いた。
 澱んだ空気を押し流すように、清々しい風が私の体と心を一気に吹き抜ける。

「あ……?」

 風は次から次へと渦巻きながら私の芯から生まれ出でて、踊るように軽やかに吹き、まるでこの身が空に浮き上がってしまいそうなほど。

 我が身の異変に目を見張りながら、それでも微塵も恐れていない自分自身が一番不思議だった。

 恐れるどころか、私はいま感じたことのない幸福感と、爽快な風に包まれている。

 そしてこの風はどこまでも、自分の望む場所へ運んでくれそうな気がする……。

『どう? なにも異常はないかしら?』
『異常ありません! オルテンシア夫人!』

 突然頭の中に、声が響いて驚いた。
 耳で聞くというよりも、風が運んできた言葉が、頭の中で浮かんでいるような感覚だ。
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