最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 下唇を突き出し、さも小馬鹿にした口調でティボー様はへらへら笑った。
 たしかに貴族の男性が愛人をつくるのは合法なのだから、裏切り行為でもなんでもない。
 エヴルの顔が怒りと悔しさのあまり青ざめている。

「ほらほら、どうした? 言い返さないのか?」
「ぐ……」
「ほらほらほら。キスをすれば、これまでの無礼はぜぇんぶ許してやるぞ? ほうら」

 片足をヒョイと上げ、バランスをうまくとれずにフラフラしながらも、ティボー様はご満悦。

 目の前でヒラヒラ動く靴先を見ていた私はもう、自暴自棄になってしまって、なりふり構わず靴に唇を押しつけてやろうとした。

 私のプライドなんか、どうにでもなれ! これでエヴルも領地も守れるならお安い御用よ!
 ……でもあんた、結婚してから覚えてなさいよー!

「キアラ様、いけない!」

 唇が靴に届く寸前、エヴルがとっさにティボー様の足を掴んでサッと動かした。

「うわ!?」
 ただでさえバランスが危うかったティボー様は体勢を保てなくなり、悲鳴をあげながら思いっきり真後ろに引っくり返る。

―― ゴォ~ンッ!

「…………あ」

 床の上で完全に伸びているティボー様を見て、エヴルも私も目を丸くした。

 い……いま、かなり猟奇的な音がしなかった……?
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