最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 薄っすらと涙で湿ったまつ毛を瞬かせて、本気で心配そうに聞いてくるエヴルを見たら、おかしくて笑ってしまった。
 私があなたを忘れるわけないのに。

「もちろん覚えているわ。あなたはエヴル。私の……えっと……大切な人よ」

 ちょっと照れながらそう言ったら、エヴルの顔が途端にパァッと明るく輝いて、満面の笑顔になった。

「キアラ様! もったいないお言葉です!」

 エヴルはほんのり頬を上気させながら、私の言葉を噛みしめているみたいに幸せそうに微笑んでいる。

 その素敵な笑顔にポーっと見惚れる自分の顔が、締まりなくヘラアッと緩んでいることに気がついて、私は慌ててエヴルから視線を逸らした。
 そして……。

「……えぇぇ!?」

 目に飛び込んできた世にも異様な光景に、飛び跳ねるように上体を起こして驚愕の声をあげてしまった。

「な、な、なにこれ!?」

 引っくり返った声をあげる私の目の前には、あって当然の物がなく、あるはずがない物が存在している。

 公爵邸の庭の木々も、石畳も、噴水も、なにもない。
 ……砂以外は。
 大きな窓から見えるものは、黄色い砂。それだけ。

 どこまでもどこまでもどこまでも、あるのは砂。砂。砂。砂ばかり。
 見渡す限り、地平線の彼方の彼方まで目一杯、信じられないほど莫大な量の砂の世界が広がっていた。
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