最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 ここが砂漠とは思えないほど涼しくて、私は薄い夜着の胸元を合わせる。

 そしてふと、自分の手のひらを見た。

 この指の先まで流れる血は、人外と異界のもの。
 そう思うと、自分の周りだけが光の射さない闇に包まれてしまったようで、深い孤独感に苛まれる。

 昨日まで信じていた自分とはまったく違ってしまった自分自身に対して、足元が崩れるような心細さと、先の知れない恐怖を感じた。

 私はこれからどうなるんだろう。

 エヴルと一緒に故郷に帰って、幸せに暮らしたいと思う。
 故郷に帰るのが叶わないなら、せめてエヴルとふたりでどこか異国の地へ逃げて、人知れず一緒に生きていきたいと思う。

 でもそのためにはエヴルは王位を諦めなければならない。
 それは、正しいこととは思えなかった。
 彼には、不運にも失ってしまった奇跡のような幸運と輝かしい未来を、これからでもその手に取り戻してほしいと思う。

 相反するふたつの強い願いが、私の心を掻き乱している。
 どちらかを手に入れるためには、どちらかを代償として払わなければならない。

 私はどちらを欲しているんだろう。
 どちらなら、捨てても構わないと思っているんだろう。

 そしてエヴルは……私と玉座のどちらを望むんだろうか……。
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