最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「キアラ様。眠れないのですか?」
 私を呼ぶ声に視線を上げると、斜め上の部屋のバルコニーにエヴルが立って私を見下ろしていた。

 ドキンとざわめく胸を押さえて、そういえば薄い夜着姿だったことを思い出し、赤面する。

 思わず顔を背けた私に、エヴルはまったく気にした様子もなく話しかけてきた。

「いま、そちらへ参ります」
「え? ……きゃあ、エヴル!?」

 バルコニーの手すりに足を掛け、ヒラリと宙に身を躍らせたエヴルを見て悲鳴をあげた。
 エヴルの部屋って三階なのに!

「危ない!」
 とっさに差し伸べた両腕の中に飛び込むようにエヴルが着地して、ぶつかるように私たちはギュッと抱き合った。

「エ、エヴルったら、落ちたらどうするのよ!?」
「落ちたりなどはしませんよ。でも心配してくださって嬉しいです」

 怒る私に、エヴルは楽しげに笑った。
 美しい景色を背にした彼の微笑みは、神々しいほど魅力的で、怒る気持ちがみるみる萎えてしまう。

 それでも一応はムッとした顔をしている私の腰に腕を回し、エヴルは砂漠に目をやった。

「なんと美しい眺めでしょう」
「ええ、本当ね。夢の世界にいるみたい」
「キアラ様とふたり、こうしていられる。私にとってはそれこそが夢のようです」
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