最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 精霊騎士の上着を脱いだ白いシャツ姿のエヴルは、いつもと違った魅力がある。
 キュンと切ない気持ちを押し隠しながら、私はおどけた口調で言った。

「キアラ様、なんてもう呼ばなくていいのよ? エヴルは王子様なんだもの。私なんかよりずっとずっと高貴な生まれなのよ?」

「それでも私はキアラ様の騎士です。あなた様へ捧げた騎士叙任の誓いは、生涯変わることはありません」

 その言葉を聞いた私の胸に、小さな期待と喜びが生まれる。

 いまの言葉はつまり、王位には就かないという意思表示?
 玉座よりも私を選んでくれるという意味なの?

 でもそんな期待に満ちた思いは、エヴルの次の言葉で冷たい水を浴びたように消し飛んでしまった。

「キアラ様、私は王位を継ぐことを決意いたしました」

 ガンッと頭を殴られたような衝撃が走り、息が詰まった。
 全身がサーッと冷えて、手足が痺れるような悲しみがジリジリと体の芯から湧いてくる。

「私ごときに、国を導くだけの器量があるかどうかは疑問です。それでも私が本当に王子であるのなら、この国に背を向けて逃げ出したくはないのです」

 動揺する私の心中を知ってか知らずか、エヴルは真っ直ぐな目で己の決意を語った。
 その目を見れば王位を望む彼の決意は固く、偽らざる本心であることがすぐわかった。
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