乙女は白馬に乗った王子を待っている
無邪気な声をだして笑う月星(るな)にゆり子はへなへなと力が抜けた。

「あの、お約束の時間は9時半だったと思うんですけど……」

「だってぇ、ここ分かりにくいじゃん。道に迷っちゃったよぉ。
 もう少し分かりやすいところに引っ越した方がいいんじゃね?」

「…………」

ゆり子は何か返す気力も起きず、ちらりと高橋の方を見た。高橋は、機嫌良さそうににこにこ笑っている。

「権藤、山村さんを隣りの部屋に通して。今から面接をするから。」

「面接ぅ? 仕事を紹介してくれるんじゃないんですか、ここ派遣会社でしょ。」

「どんなお仕事がしたいか、じっくりお話を伺わないことには、紹介もできませんから。」

高橋は、そう言うと山村月星(るな)ににっこりと微笑みかけた。

横で見ているゆり子の方がドギマギしてしまうほどの涼やかな笑顔である。

高橋はさりげなく山村を隣りの小部屋に案内しながら、小さな声で「権藤も一緒に来て」と言った。



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