乙女は白馬に乗った王子を待っている
「あ、それはもう大丈夫。あたし、カレシのことからはもう立ち直ったもん。」
「でもね、山村さん、今日も遅刻したでしょう。約束は9時半だったはずですけど。」
高橋が初めて、時間に遅れて来たことを指摘した。
「それは、会社がヘンな場所にあるのが悪いんじゃん。」
「その会社も、結構分かりにくいところにあってね、
バスに乗り遅れたりすると絶対遅刻しちゃうようなところなんですよ。」
「バカじゃないから、一度行けば覚えられるし。」
いや、バカじゃねーのか!?
「本当ですか?」
「もちろん。」
「では、それを証明して頂けますか?」
そこで、初めて月星(るな)は、おや、という顔をした。
「はあ?」
「明日から5日間、朝9時15分に当社に来て、研修を受けて頂きたいんです。
もちろん交通費と研修代はお支払いします。できますか?」
「研修、って何の?」
さらに当惑した顔になる。
やっぱりね!!
きっと、この山村さん、テキトーに来て、テキトーに話してりゃなんか仕事、紹介してくれんでしょ、ぐらいな感覚だよね。
な・め・ん・な・よ!!
それで、決まりゃあ、あたしなんか今ごろ大企業のオサレOLだっつーの!
どれほど、人事担当者にヒドいことを言われてきたか。あんたも少しは世間の厳しさっちゅーもんを知りなさい!
もう、ゆり子はのど元までぶつぶつと愚痴が出かかってぷるぷる震えている。
しかし、高橋は涼しい顔を崩さず、にこやかに説明を続けていた。
「受け付け嬢になるための研修です。」
「研修? 研修しないとなれないの?」
「当社は、派遣先様に、自信をもって最高の人材を送る事が使命と考えていますので、
山村さんにも一流の受け付け嬢になるべく研修して頂きたいと思っています。」
「一流」が効いたのか、山村月星(るな)はふーん、という顔になった。
「……じゃあ、しょうがないからやってやるか〜。」
「では、明日からよろしくお願いします。」
山村月星(るな)は、またにこにこと笑うと事務所を出て行った。