雨音の周波数
【1】季節外れのクリスマス
 あっ、雨の匂い。

 いつもならスムーズに車を走らせることができる道で、渋滞に巻き込まれている。その状況に少しイライラして、気分転換に窓を開けた。すると雨の匂いが流れ込んでくる。

 それにしても動かないな、どうしたんだろう。

 車と車の合間から状況を確認しようと少し体を伸ばした。でも何が起きているのか、よくわからなかった。今、はっきりしていることは渋滞にはまってしまったということだけ。

 仕方ない、次の角で曲がって裏道に行くか。

 流れに沿って、のろのろと車を走らせる。弱く降る雨の音は心地よく、窓を開けたままにしていた。たった数メートルが長い道のりだった。あと少しで右折できると思った矢先、信号に捕まる。

 本降りになってきたな。

 窓を閉め、左右に動くワイパーを眺めた。フロントガラスにできる雨粒をワイパーがかき消す。

 信号が変わり、渋滞から離れるため右折した。細い道を走っていると高校が見えた。その高校は自分が通っていた高校に似ていて、胸がギュッとなる。いつまで経っても消えることのない思い出は甘くて柔らかい感覚を連れてくる。その後は必ず苦くて冷たい感覚になる。

 私は恋をした。初めて彼だった。なにもかも私にとって初めてだった。手を繋ぐこと、告白、デート、抱きしめられること、キス。そしてセックスも。あの時、女の私ができあがった。

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