雨音の周波数
 雨と学校が私の感情をかき乱す。深く息を吐きだすと、その感覚はスッと消えてなくなった。カーラジオからCDを変え、頭を仕事モードに切り替える。

 九月に入り、夏の暑さが和らいできた。それでも暑いことには変わらず、街行く人は半袖だ。私ももちろん半袖。そしてカーステレオから流れるのはクリスマスソング。なんとも滑稽だ。

 たぶん日本で今、クリスマスのコンピレーションアルバムを聴いている女なんて、私くらいしかいないだろう。何とも言えない笑いが込み上げてくる。

 しょうがないじゃないか。仕事なんだから。

 そう言い聞かせながら会社に向かった。


「おはようございます」

 私の向かいに座る経理担当の宮本さんに声を掛けると「おはよう」と返ってきた。自分のデスクに座り、A4の真っ白の紙を広げた。

 どんな内容にしよう。クリスマスって言ったら、ラブストーリー? 当たり前すぎかな。真逆にホラーはないよね。音しかない世界だからファンタジーとか、SFとかって面白いよね。

「クリスマスにホラーはないだろ」

 声の主は社長であり師匠の佐久間さんだった。

「おはようございます。まだアイディアを練っている段階ですからご心配なく。ちゃんとクリスマスから離れることはありませんから」
「それならいいけど。今週の水曜日までにプロット上げろよ」
「はい」

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