雨音の周波数
【2】新番組
 慌ただしく年末年始が過ぎ、あと数日で一月のカレンダーを捲らなくてはならない。仕事に追われていれば、あっという間に今年も終わってしまうだろう。スマホのカレンダーを見ながらため息を吐いた。

「おはようございます」

 会議室に入ると、夏川さんがホワイトボードを何度も前後に押しながら移動していた。

「あ、おはようございます」
「大変そうですね。手伝いますよ」

 適当なイスにバッグを置き、ホワイトボードへ近づいた。

 会議室の隅に追いやられていたホワイトボードをテーブルの近くにセッティングする。

「ありがとうございます、助かりました。このホワイトボード、キャスター部分が少し壊れていて動かすのが大変だったんです」
「キャスターから変な音がしてますよね」

 私は自分のバッグを置いたイスに座り、会議用の資料などをテーブルに並べた。

「私、自販機で飲み物買ってきますけど、小野さんの分もついでに買ってきましょうか?」
「私は大丈夫です」
「そうですか」と言って、夏川さんはお財布だけを持って会議室から出て行った。

 この会議室に入るのはクリスマス特番の日以来だ。

 圭吾だったかもしれない感想メールのことを不意に思い出すときがある。本当に圭吾だったかもわからないメールに、少しでも囚われてしまう自分が嫌だった。

 確かめることも、調べることもできないのだから、もう考えるのはやめよう。

 会議室の外から足音と話し声が聞こえてくる。ドアが開き、人がぞろぞろと入ってきた。

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