雨音の周波数
 圭吾とは少しずつ距離を取った。おじいちゃんには悪いと思ったけれど、おじいちゃんの入院を言い訳にした。

「それなら仕方ないよね」と圭吾は納得していた。

 学校側にも自分の転校は伏せておいてほしいと頼んだ。担任は「いいんですか?」と聞いてきたが「受験で忙しいときに、気を使わせるのも悪いので」と言った。

「そうですか。わかりました」と担任も納得してくれた。

 一足先に引っ越し先の家へ行く予定だった母親に付いていき、私は夏休みと同時に圭吾の前から消えた。

 携帯電話は新規契約をして、圭吾とのお揃いを消した。そして数人の友達にだけ新しい連絡先をメールで送った。

〈急に引っ越すことになりました。ちゃんと言わなくてごめんね。
 圭吾とは別れたから、連絡先を聞かれても教えないで。何か聞かれても知らないって言ってほしい。
 少し整理したいから詳しいことはあとで話す。また連絡するね〉

 このメールで大体のことを察してくれた友達は、詳しいことを聞かないでいてくれた。


 志望大学は変更した。引っ越し先の家から通える所にしようかとも思った。でも、シナリオライターや文章の仕事がしたいと思っているのは変わらない。圭吾のことで納得のいかない進路に進むことはできない。そこで文系の女子大を第一志望にした。行く予定だった大学とレベルも変わらない。

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