雨音の周波数
 圭吾と行く予定だった大学からは少し離れるし、女子大だから圭吾と大学で鉢合わせることは絶対にありえな。

 私は親に宣言した通り、女子大の寮に入ることになった。

 大学二年の春。圭吾のことも記憶から少し薄らいだ頃。求人雑誌で見つけた制作会社の事務のアルバイト募集。

 その会社が株式会社SAKUMAだった。そこから私の放送作家という夢が広がり、なんとか現実にすることができた。


 圭吾のことで泣くことはなかった。受験勉強、おじいちゃんのこと、新しい学校生活、気持ちを緩める暇がなかった。きっと大学に入学して、予想外の時期に号泣するんじゃないかとも思った。その予想は外れていた。

 圭吾との思い出が過りそうになると、反射的に記憶の視線を最近読んだ本や観た映画などに逸らした。知らない間にそんな癖がついていた。

 圭吾との恋は終わらせてしまった恋となった。

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