雨音の周波数
 嫌だなと思いながら、会議室に入った。

「今日も生放送お疲れ様」
「ありがとうございます」
「唐突だけど、お見合いする気ない?」
「え、あの」

 予想外の話で言葉が出てこなかった。

 イスに座り見上げる佐久間さん。向かいに立ち目を見開く私。数秒の無言の間ができた。

「うん、お見合い」
「あの、どうしてお見合い話が出てくるんですか?」
「いや、知り合いに頼まれてね。いい人を紹介してくださいって。お見合いと言っても、気楽な会食とでも思ってくれればいいし。嫌ならここで断ってもいいよ」

 佐久間さんはニコニコしながら話している。

 こんな話なら無茶苦茶な仕事を押し付けられたほうがマシに思えた。

「突然の話で」
「そうだよね。急に言われても困るか。月末までに返事をくれればいいから」
「はい、わかりました」

 私が会釈をすると、佐久間さんはテーブルに広げた資料へ目を向けた。会議室を出て、ため息を吐く。

 二十九になり、親戚関係からの縁談話や友人からもいい人を紹介するよ、といった話が多くなった。とうとう職場にもその波が来たようだ。

 彼氏なしの独身女。恋愛乾燥女。私のようなタイプはお見合いのほうが案外いいのかもしれない。

 自分の席に戻り、四月のレーティング期間に放送することになったラジオドラマの原稿を書き始めた。

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