雨音の周波数
 旦那さんとの出会い素敵ですね」

 長いメールが読み終え、中島さんは作品の感想を話している。

 上手くいったと思う。あとはリスナーさんの反応のみ。

 ガラス越しに中島さんと目が合った。その顔はなにかを企んでいるものだった。嫌な予感がする。スタッフもなにかを察知したのか、私に視線が集中する。

「このラジオドラマの脚本を担当した作家さんに裏話を聞いてみたくありませんか? 予定にはなかったのですが、ちょっと呼んでみたいと思います」

 予感は的中した。できれば出たくない。放送作家は裏方だ。表に出る気は全くない。ただ、ここで拒否をしてもスタッフと中島さんの誘導によって出るしかないように仕向けられる。

 中島さんに不満だという視線を向けながらブースの中に入った。

「作家さんが入ってきましたよ。自己紹介お願いします」

 静かに息を吐きだし、カフを上げてマイクをオンにした。

「こんにちは。放送作家の小野です」
「小野さんと一緒にラジオに出てるのって不思議な感じですね」
「そうですね。私は違和感しかないです。その上緊張していて、ちゃんと話せているか心配ですよ」
「そうなの? 小野さん、落ち着いているようにしか見えないけど」
「必死です」

 その言葉に中島さんは楽しそうに「必死なんだ」と笑った。

 新入社員のときに研修で、中島さんからパーソナリティーの基礎を習った。もう五年も前のことなので記憶は薄い。なるべく聞き取りやすいように、ゆっくりと話すよう心掛けた。

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