雨音の周波数
 来週の打ち合わせをして、今日で終わったレーティングの労をねぎらい解散となった。

 ラジオ局を出ると軽いクラクションの音がした。その方向を見ると佐久間さんの車があった。車に近づこうとしたときだった。

「春香!」

 何年も聞いていない声。そして最近になって記憶から出てきてしまっていた声。

 後ろを振り向くと圭吾がいた。スーツ姿は初めて見た。背筋が真っ直ぐと伸びていて、清潔感のある雰囲気。高校生の頃と変わっていなかった。でも少年っぽさのあった顔立ちは消え、大人の男となっていた。

「どうして」
「やっぱり春香だ」

 近づいてくる圭吾に数歩後ずさりをする。

「ずっと春香に会いたかった」

 私は声を出すことができなかった。こんな形で圭吾が私の前に現れるなんて思ってもいなかった。

「春香」

 名前を呼ばれると動けなくなってしまう。圭吾の手が私の手首を掴もうとした瞬間だった。

「小野、時間ないぞ。会議に遅れる」

 佐久間さんが後ろから腕を引っ張り、車の助手席へと押し込んだ。

 車はすぐに発信し、サイドミラーに写る圭吾の姿はどんどん小さくなっていった。

「シートベルト」
「あ、すみません」

 シートベルトを着け、佐久間さんの方を見た。

「お節介だったかな?」
「いいえ。ありがとうございます」

 車内は静かになった。その静けさが居たたまれなくなり、自分から話しかけた。

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