雨音の周波数
「あの、どうしてラジオ局に?」
「知り合いに頼まれてな。夏季限定で放送する番組を担当することになって、今日は企画内容を話合いに来てたんだ。ちょうど小野のほうと終わるのと同じくらいになったから、ついでに拾っていってやろうと思って」
「そうだったんですね。あの、この前の企画の話なんですが」
「小野、もう喋るな」

 佐久間さんに言葉を遮られ、顔を上げた。

「泣きそうな顔で仕事の話なんてしなくていいよ」

 そんなはずはない。私は今泣きたい思いなんてない。佐久間さんの言葉を無視して口を開いた。

 すると佐久間さんが私の頭に手を置く。そのまま軽く頭を撫でられた。その瞬間、涙がボロボロと流れてきた。

 圭吾の前から消えたあと、予想外の時期に号泣するんじゃないかと思った。これは予想外すぎる。もう十年以上も時間が経っている。せめて一人の時に泣きたかった。どうして師匠であり、上司の佐久間さんの前で。

 早く止めないと。

 泣き止め、泣き止め、と何度も唱えた。そう思えば思うほど涙が溢れてくる。せめて声ぐらいは堪えようと思い、奥歯に力を入れる。

 会社に着く前に泣き止まないと。

 バッグからハンカチを取り出し、両目にあてる。そして口からゆっくり息を吐きだし、ゆっくり息を吸った。これを何度か繰り返しているうちに涙は止まった。

 車は会社の駐車場へと来ていた。佐久間さんの専用駐車スペースに車が止まる。

「いろいろとすみませんでした」

< 43 / 79 >

この作品をシェア

pagetop