雨音の周波数
 向かいに小さなコーヒーショップが見えた。そのコーヒーショップに入り、窓側の席に座った。ブレンドを頼み、窓の向こうに見えるビルを眺める。人の出入りはあるが、圭吾らしき人は出てこない。道行く人を眺めていると、窓ガラスにぽつぽつと滴模様ができる。

 雨……。天気予報、当たった。

 午前中は晴れるが、夕方から雨になります。その予報を信じて折り畳み傘を持ってきた。少しずつ強くなる雨を見つめながら告白されたあの日を思い出した。

 圭吾は私を待ち伏せしていたとき、なにを考えていたのだろう。今の私のように高校生の頃の自分たちを思い出していたのだろうか。それとも聞きたいことをぐるぐると考えていたのだろうか。

 なぜだろう、今の私は不思議なくらい落ち着いている。やるべきことが見えているから。どんな結果になっても受けいれられるような気がしていた。

 エントランスから一人の男性が出てきた。傘を持っていないらしく、空を見上げている。

 圭吾だ。

 空になったテイクアウト用コーヒーカップを捨て、コーヒーショップを急いで出た。傘を差しながら圭吾の傍へ駆け寄る。

「圭吾!」

 雨に声が消えないように少し大きな声で言った。その声は圭吾に届いたようで、私を見て目を見開いた。

「なにしてるんだよ」
「会いたくて、圭吾に。話がしたいの」
「もう、ないよ。話すことなんて」
「圭吾はそうだと思う。でも、私にはあるの。駅まででいいから。雨だし、傘ないんでしょ。送るよ」

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