雨音の周波数
 一歩近づいて、もう一人入れる空間を作った。圭吾はためらいがちに傘に入ってきた。

 高校生のときより少し背が高くなっている。こんなに近づいたのは高校の時以来で、少しの変化に気づき、嬉しくて緊張する。私の歩調に合わせて歩く圭吾。そういう所は変わっていない。

「圭吾の働いている会社がうちの番組のスポンサーでびっくりした」
「俺もまさか社長がラジオ見学するなんて言うとは思わなくて焦ったよ」
「そうなの? すごく落ち着いているように見えたよ」
「まあ、秘書があたふたしてるのは変だろう」
「そうだね」

 圭吾がちゃんと会話をしてくれることが嬉しかった。なにを質問しても「ああ」とか「うん」だけで終わってしまうかもしれないと思っていたから。

「付き合っている人には言ってるのか、俺に会うこと」
「彼には振られた」
「そうか。ごめん、変なこと言って」
「ううん。気にしないで。私が悪かったんだから」

 傘に当たる雨の音が強くなった。土砂降りの雨。この雨の中、二人で一つの傘を使うのは無理がある。圭吾の肩も私の肩も濡れてしまっている。コンビニの店頭にはたくさんのビニール傘が販売されているのに、圭吾はそれを気づかない振りをして同じ傘の中にいる。

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