雨音の周波数
【10】恋の先に
 私と圭吾は結婚を前提に同棲を始めた。圭吾はすぐにでも籍を入れると言い張りかなり困った。

 復縁カップルとは言え、十年も離れていた。それだけの時間があれば性格だって変わるし、それぞれのライフスタイルだってできあがっている。

 恋人の期間も楽しみたいと説得をして、入籍の時期はちゃんと話し合おうということになった。その交換条件として突き付けてきたのが同棲だった。

 とにかく私と一緒にいたいらしい。独占欲が強いタイプとは思わなかった。もしかしたら私のせいで強くなっているのかもしれない。一回、消えていますからね、私。その上、一回、振ってもいますからね、私。思い当たる節があり、圭吾が喜んでくれるならいいかと思い同棲をすることにした。

 小さなケンカはするけれど、仲良く暮らしている。

「春香、まだ仕事」
「うん。ちょっといいネタが」

 リビングに置いてあるローテーブルにパソコンを広げキーボードを打っていると、左肩がズンと重くなった。

「春香、暇」

 私の肩に顎を乗せながら圭吾が言った。

「もうちょっと待って」
「ねえ、春香」

 圭吾が少し不機嫌そうな声を出した。その声に嫌な予感がした。キーボードを打ちながら「うん?」と返事をする。

「佐久間さんとはどんな感じ」

 圭吾にとって佐久間さんは不安要素でしかないらしい。やり直すと決めたとき、真っ先に聞かれたことが佐久間さんのことだった。

 あの別れ話のあと、出張から帰ってきた佐久間さんと顔を合わせるのは気まずかった。ただ、佐久間さんは私よりも大人で、なにより揺らぐことのない師匠という立場を貫いてくれた。

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