雨音の周波数
 佐久間さんの出張中に、私が送った企画書に対して、怒涛のダメ出しをもらった。出張から帰ってきたその日に。私の気まずさは一気に吹き飛んだ。

 変に隠し事をして、昔の私のように盛大に勘違いをされては困ると思い、素直に話した。上司であり、師匠であること。付き合ってはいたが、食事くらいをする関係で別れていること。現在は、向こうもこっちも仕事仲間でしかないことを。

 一応、元カレが一緒の職場にいるのは、彼氏として不安になるのだろうけど、週一くらいで聞いてくるのはやめてほしい。

「ただの仕事仲間だから。そんなに私のことが信用できない?」
「そんなことはないけど、心配になるんだよ。俺と別れてからの春香を、あの人は知ってるし。佐久間さん、大人の男って感じだし、仕事もすごくできるんだろうし」

 圭吾の話を聞きながらニヤニヤしてしまった。

「ちょっと、なに笑ってるんだよ」
「いや、圭吾が嫉妬してくれたのって初めてだよね」
「そんなことない。高校のときも嫉妬してた。春香に告白した奴は全員大嫌いだったし。でも、そういうのを春香に見せるっていうのは格好悪いと思って我慢してた」

 そう言って、圭吾はため息をついた。

「そっか、不安にさせてごめん。私には圭吾だけだから。すぐに仕事終わらすね」
「わかった」

 圭吾は顔の位置は変えず、両腕をお腹に回してきた。後ろから抱き着かれている状態だ。こうなったらなにを言っても離れない。

 圭吾の存在を無視して、一気にプロットを書き上げた。

「よし、できた」
「終わった?」
「終わったよ」

 弾むような声で言う圭吾の頭を撫でて、背中を預けた。すると首筋や頬にキスを仕掛けてくる。

「ちょっと圭吾」
「かわいい、春香」
「そうですか」

 仕事を待ってくれたご褒美と思い、圭吾の好きなようさせる。

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