婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「えっ だって、圭司が始めに言ったんだよ 松井くんなんじゃないかって…」
私だって松井くんを疑いたくはないけれど、勇斗が巻き込まれた以上、悠長なことを言っていられない。
ここは一番可能性のある松井くんを疑うしかないのだ。
けれど、圭司は腑に落ちないというような顔で、首を傾げた。
「確かに俺も電話の時まではそう思ってたんだけど、後をつけたり、勇斗にたい焼きを食わしたりっていうのは、ちょっとしっくりこないんだよな あいつだったら、そんなまどろっこしい真似なんてしないで、直接なつに会いにくると思うんだよ」
確かに圭司が言っていることも、一理あると思った。
けれど…
「それでも、可能性がある以上無視できないじゃない もう早く解決したい このままじゃ、怖くて勇斗を外にも出せないよ」
思わず声を荒げた私を、圭司が抱きしめた。
「分かってるよ なつ 俺だってこのままにするつもりなんてないから… じゃあさ こうしよう 明日、金沢に行って、直接あいつに確かめてこよう」
「えっ 金沢に?」
「そう 明日から三連休に入るし、さすがにあいつだって金沢の旅館に戻ってくる筈だろ? ちょうど明日は、勇斗もなつの実家に泊まりに行く日だしさ…」
「うん そうだね あー でも、私、松井くんちの旅館の名前、知らないよ 連絡先も消しちゃったし…」
「そんなの、調べればすぐ分かるよ 経営者はあいつかあいつの父親だろ?」
そっかと感心している間に、圭司はパソコンを開いて早速検索をかけていた。
「あった これじゃない? つうか、これ、何の捻りもないのな… そのままじゃん」
「どれ?」
画面を覗くと、大きく『松井旅館』と出ていた。
「ホントだ」
一瞬、気が抜けてクスッと笑うと、圭司もつられて笑っていた。
………
翌朝、勇斗を私の実家に預けた後、私達は新幹線に乗って松井くんのいる金沢へと向かった。
金沢駅に着くと、すでに送迎用のワゴン車が私達を待っていてくれた。
そう
私達は、『松井旅館』の宿泊客としてやってきたのだ。
ワゴン車に乗り込むと、年配の運転手さんが、早速お決まりの言葉で声をかけてきた。
「お客さん達は、どちらからいらっしゃったんですか?」
「東京ですよ」
圭司がそう答えると…
「やっぱり、東京の方は違いますよね~ 垢抜けているというか、何というか… お二人とも芸能人かなって思っちゃいましたよ~」
今度はリアクションに困るようなセリフを言ってきた。
「いやいや お宅のとこの若旦那には敵いませんよ…」
すかさず圭司がそう返すと、運転手さんは驚いたように目を丸くした。
「えっ ご存じですか!? うちの若旦那を」
「あー ホームページに載ってた写真見たんで…」
なんて、圭司はしれっと言ってのけた。
実際には松井くんの写真なんて、どこにも載っていなかったけれど、圭司はこの年配の運転手さんが、パソコンなど扱えないと踏んだのだろう。
案の定、運転手さんは何の疑問も抱かずに会話を続けた。
「そうなんですよ うちの若旦那ね、3年くらい前に東京から戻ってきて親父さんの跡をついだんですけどね、あの通り若くていい男だから、仲居達が皆、大騒ぎしていましたよ~ でもね、ここだけの話ですけど、若旦那には東京に忘れられない人がいるみたいでね… 縁談話も全部断っちゃったらしいですよ~」
「えっ!!」
思わず声を上げてしまった私を見て、運転手さんはニヤリと笑った。
「あー ダメですよ~ そんなに露骨にガッカリなんかしたら、隣のご主人に睨まれちゃいますよ~」
なんて、検討外れなツッコミを入れられているなか、私は松井くんの言葉を思い出していた。
『俺は一生なつだけを想って、独りで生きていくよ』
やっぱり、松井くんで確定なの?
不安げに圭司を見つめると、圭司は黙って私のことを抱き寄せた。