婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~
「おい ちょっと待てよ! 何の話だよ!?」
松井くんが驚いた顔で私を見た。
「惚けないでよ 家に電話してきたり、後をつけたり、勇斗にたい焼き食べさせたり、全部松井くんの仕業なんでしょ! 一体、松井くんは何がしたいのよ!!」
「は? それ 俺じゃねーよ 俺はただ、なつに」
松井くんは私の両腕を掴んで、必死に訴えてくる。
「キャ! ヤダ ちょっとはなして!」
私は咄嗟に枕を掴んで、松井くんの体を叩いた。
「おい やめろって! なつ 落ちつけって!」
「じゃあ 早く認めてよ! もう二度としないって約束してよ!」
私は夢中で松井くんを叩き続けた。
「だから、それ 俺じゃ…」
「なつ やめろ!」
突然、頭の上から圭司の声が聞こえて、枕が取り上げられた。
「えっ… 圭司?」
「なつ こいつは関係ない だから、少し落ちつけ…」
圭司は私を抱き寄せて、耳元でそう言った。
「でも 松井くん、昨日と一昨日、東京に来てたって… 私にも電話して会おうとしてたって…」
「ああ それは、婚約者と一緒に…だよな? 松井」
圭司は松井くんの方に振り返ってそう尋ねた。。
………
私は圭司と並んで医務室のソファーに腰かけた。
向かいに座った松井くんが、ゆっくりと話し始めた。
「なつと電話で話した時さ、俺 好きな子にプロポーズするって言ってただろ? あれ、上手くいってさ、来年結婚することになったんだよ… そしたら、彼女がさ、東京の病院に入院してるおばあちゃんに、早く知らせたいって言うもんだから、急遽、東京まで会いに行ってたんだよ なつの携帯にかけたのはさ、せっかく東京まで来たから、なつにも彼女を紹介しようとしただけなんだけど… まさかストーカーと思われてたとはな…」
松井くんが苦笑いを浮かべた。
何だか、私はとんだ勘違いをしてしまっていたようだ…
「松井くん ごめんね 松井くんがそんな事する訳ないって分かってた筈なんだけど… 私、勇斗が巻き込まれてから冷静な判断ができなくなっちゃって… 本当にごめんなさい 許して 松井くん」
もうこれは、完全に私が悪い…
頭を深く下げると、松井くんが「もう いいよ」と笑ってくれた。
「俺は疑いさえ晴れればいいからさ… それより、なつも大変だな 誰だよな そいつ 俺にも何かできることあれば」
「ねーよ おまえはただ、なつに関ってこなきゃさえすりゃいーんだよ」
圭司が横から口を挟んだ。
「うっわ~ どんだけ嫉妬深いんだよ ホント相変わらずだな ちょっと引くわ」
松井くんも負けじと言い返す。
「おまえこそ、そんな生意気な口きく前に、何か俺に謝罪することあんじゃねーの? 忘れたとはいわせねえからな」
圭司が松井くんを睨みつけながら低い声を出した。
「ああ キスのこと? それなら、本人に許してもらったからもういいんだよ いつまでもグチグチ言ってんのはおまえだけだぜ… ホント器のちいせー男だな」
「やっぱ、おまえ、一発、殴ってやろっか?」
とうとう、圭司がプチンと切れて、松井くんの方に身を乗り出した。
あーあ もう 結局、最後はこうなるのだ。
「もう ちょっとやめてよ! 圭司もこんなくだらない喧嘩してる場合じゃないでしょ! 早く犯人だって見つけなきゃならないのに…」
私は圭司の腕を押さえながらそう言った。
圭司はふうと息を吐き出した後、急にニヤリと笑って松井くんを見た。
「まあ いいや 綾乃さんだっけ? 彼女にちゃんと謝ってもらったから許してやるよ ホント良くできた嫁さんだな じゃあ なつ いくぞ」
圭司はそう言うと、私の腕を掴みながら立ち上がった。
「おい! 綾乃に何言ったんだよ! てめー 卑怯だぞ! おい」
後ろからは、松井くんの悲痛の叫び声が…
圭司はそんな松井くんを無視して、スタスタと歩いていく。
「ねえ 圭司 いくら何でも、キスのことを婚約者に言うのは、ちょっとやり過ぎじゃない?」
「キスのことなんか言ってないよ…」
圭司が小さな声で呟いた。
「えっ… じゃあ、その綾乃さんには、何を謝ってもらったの?」
廊下を歩きながら、そう尋ねると…
「ああ さっき、廊下でぶつかりそうになって、スミマセンって謝られただけだよ ネームプレート見て噂の婚約者だって分かったから、ちょっと利用させてもらっただけ…」
圭司が悪い顔をして笑っていた。
きっと、松井くんは余計なことを綾乃さんに謝って、彼女を怒らしてしまうんだろうな…
私は松井くんに同情しながら、長い廊下を歩いて行った。