婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~

………

それから間もなく、マンションは差押えとなり、香奈子さん達は仙台にある彼女の実家へと越していった。

『勇斗くん、これあげる…』

引っ越しの日、悠真くんが勇斗の手に貝殻を乗せた。

『うわあ きれぇい… あいがとう』

珍しそうにサクラ色の貝を眺める勇斗に、悠真くんがこう言った。

『ぼくの宝ものなんだ… 二つあるから、勇斗くんに一つあげるね… 勇斗くんはぼくのしんゆうだから』

『しんゆう? しんゆうってなあに?』

『どこにいても、一番のお友達っていうことなんだって… ママが言ってた…』

『ふーん そっかあ』

勇斗が嬉しそうに笑った。
それから毎晩のように、勇斗はその貝殻を大事そうに見つめている。


「えっ… あいつ、弁当屋で働いてんの? 安定期にも入ってないのに大丈夫なのかよ…」

リビングでビールを飲んでいた圭司が、携帯を見ながら目を丸くした。

一カ月ぶりにアップされたタイムラインに、エプロン姿で笑う香奈子さんが映っていたからだ。

「ああ、なんかね、弟さん夫婦のお弁当屋さんを少し手伝ってるらしいんだけど… お店の看板娘として、ただいるだけでいいって言われてるんだって…」

「看板娘って年でもないだろ…」

プッと圭司が笑った。

「それがね、モデルのハルのそっくりさんがいるって、地元で評判らしくって… 香奈子さんがいるとお弁当がよく売れるんだって…」

「へえ~」

「でね、香奈子さん時々、来たお客様にサイン書いたり一緒に写真まで撮ってあげてるんだって… 有料で」

「ハハッ 有料なのかよ… あいつもちゃかりしてんな」

「必死なんだよ 香奈子さんも」

「まあな、確かに今は生活かかってるもんな… あー そう言えば、旦那の方はどうなった?」

「うん ご主人も就職見つかったって… 小さい会社みたいだけど、お金貯めて、またいつか起業するんだって張り切ってるらしいよ…」

「ふーん まあ、良かったよな… 一時はどうなることかと思ったけどな…」

「ほんとだね…」

香奈子さん達が引っ越してしまったのは寂しいけれど、香奈子さんの顔が幸せそうで、何よりホッとする。

「あっ そうだ… ねえねえ、圭司、これ見て~ 香奈子さんに貰ったの~」

私はニヤリと笑って、携帯の写真を圭司に見せた。

「は? 何だよ これ…」

「これ、だ~れでしょう?」

「いや 俺だけどさ… つうか、あいつも何でこんな写真持ってんだよ…」

チッと舌打ちしながら、圭司がブツブツ呟いた。

そう、それは、ヤンチャ時代の圭司の写真だ。
派手な茶髪に、ピアスをたくさんつけて、噂通り当時はかなり遊んでいた感じだ。

「香奈子さんね、入学当時から圭司の追っかけしてたらしくて… たくさん隠し撮りしてたんだって… ほら こんなのもあるよ」

今度は悪そうな仲間達と一緒に、圭司が咥えタバコで単車にまたがっている写真だ。

「うわっ… 消せよ こんなの… 勇斗が見たらどうすんだよ これこそ教育上よくないだろ~」

「あー ダメダメ」

圭司から慌てて携帯を取り返す。

「圭司って昔のアルバムとか全然ないでしょ… 例え黒歴史の写真だって貴重な一枚なんだから~ それにね、更生前と更生後のビフォアアフターがちょっと面白いんだよね ほら、これなんて別人だも~ん やっぱり愛の力なんだろうね 芹香さんのおかげなんでしょ これ」

そこに映っているのは、髪を黒く染めなおし爽やかに笑っている制服姿の圭司だ。

圭司の過去はだいたい聞いてはいたけれど、人ってここまで変われるものなんだな~と改めて感心した。

「どうせ、あいつから余計なこと聞いたんだろ…」

圭司がため息交じりにそう言った。

「え? 余計なこと…?」

「いいよ 惚けなくて… どうせあれだろ? 俺の芹香への独占欲が異常過ぎて、クラスの奴らがドン引きしてたっていう話だろ?」

「えっ?」

「あー じゃあ、芹香の誕生日にサプライズ演出やりすぎて、芹香がドン引きしたっていう話か…? って えっ」

ムッとする私を見て、圭司の顔色が青くなった。

「ううん どっちも、今、初めて聞いたけど… ふーん あれだね 圭司って、すっごく芹香さんのことが好きだったんだね」

「えっ いや そういう訳じゃ」

「別にいいけど…」

素っ気なくそう言うと、圭司がガバッと私に抱きついた。

「ごめん なつ 嫌な思いさせたよな… でも、分かってるだろ? 俺のなつへの愛情がどれだけ深いものなのかくらい… あの頃の比じゃないよ… 愛してるよ なつ 俺はなつが愛しくて愛しくてたまらないんだよ…」

圭司の言葉ひとつで、一瞬にして笑顔になれる単純な私…

「うん、まあ、知ってたけどね」

照れながらそう言うと、圭司のキスが止めどなく降ってきた。


 [完]




《読者の皆様へ》

ここまで読んで下さった方、そして、長い間、更新を追いかけて下さった方、本当にありがとうございました。

この作品を完結できたのも皆様のおかげです。

この『婚約者はホスト』シリーズも5作目となり、気づけばここに出てくる圭司は婚約者でもホストでもなく…ただの夫になっていました。(笑)

もはや普通の夫婦の物語ですが、こうして続編を追いかけて下さった方々に感謝です。

ありがとうございましたm(__)m


             桜 サク 


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